学びのすゝめ
筆者:岩田屋本店 本館7階 学 IWATAYA担当 仲野
―はじめに
少しずつ春の息吹を感じる季節となりました。
二十四節気では、春分のひとつ前の季語にあたる「啓蟄(けいちつ)」を迎えるこの時期。
連日の厳しい冷え込みもようやく和らいで、一雨ごとにあたたかくなるようですね。
啓蟄の「啓」という文字には、ひらく・解放する、「蟄」は虫たちが冬の間土の中に籠る、という意味があるそうです。春の到来を感じて、さまざまな虫や植物、動物たちが外の世界へ出てくる頃。
私たちも新生活への期待に胸を膨らませ、心が踊り、ソワソワした気持ちになる時期ではないでしょうか。
同時に、季節の変わり目でもあり、心身の調子が乱れたり、ストレスが溜まりやすい時期でもあると思います。イライラしたり、ぼんやりしたり。
そんな気持ちを落ち着かせ、ゆっくりとおおらかな気持ちで自分と向き合うこと。何かに没頭することで心身を「整える」ことができたらいいですよね。
今回は、そんな時にピッタリな講座「伊賀の組紐(くみひも)」をご紹介します。
日本の伝統的な工芸に触れながら、自分と向き合い、糸を組む。ひとつひとつ手作業で組み上げるからこそ、その作品の中に自らの心が映し出されるようです。
組紐を通して、自分の中の憧れのような気持ちを表現してみるのはいかがでしょうか。
―『伊賀のくみひも』とは
伊賀のくみひもとは、古くは奈良時代から受け継がれているともいわれる三重県の伝統的工芸品です。
絹糸や金銀糸などを用い、角台、丸台、高台、綾竹台などの伝統的な組台で繊細な紐に組み上げられています。
※くみひもの一例。こちらは帯締め。
特に、手で組み上げる「手組紐」が有名で、美しく染められた絹糸が織りなす独特の風合いには、時代が経っても色あせない魅力があります。
また、数年前に大ブームとなった映画「君の名は」で、主人公が着用している髪飾りとして、またブレスレットとしても登場したことから、組紐の産地である地方のお土産屋さんでは、知る人ぞ知る人気アイテムともなったそうです。
学IWATAYAの授業では、丸台といわれる木製の道具をつかって、床の上にゴザを敷き、座布団の上に座って組紐を組んでいきます。
お好きな色と柄の帯締めを組まれる受講生の方が多いですが、ご自身が作られたいストラップ、メガネやマスクホルダー、お洋服に合わせるアクセサリーなど、先生に相談しながら、なんでも自由に作ることができます。
※実際に授業で使用している「丸台」。
中央上部に空いている丸い空洞から鉛の重りを吊り下げて、糸玉が地面に落ちないようにしている。
現在では、後継者不足のため、丸台をつくる職人さんも減ってきているとのこと。
※授業風景。エクササイズ教室にゴザを敷いて、みなさん思い思いの作品を組んでいきます。
~定例講座~
日時:毎月第2・4水曜日 午後3時30分~5時30分
受講料金:23,100円(3か月・6回) ※初回糸代 2,500円程度
―講師のご紹介
日本和装コンサルタント協会認定
組紐教授
寺﨑 月美 先生
着物の着付けをきっかけに、組紐に出会って約35年。
講師の資格を取得されてからはこの道22年。
組紐を通して、奈良、平安、鎌倉時代と脈々と受け継がれる歴史の奥深さを学ぶ。
授業では、組紐の主流の法則をよく理解したうえで、自由におおらかな、しかも力強い組紐をくむことを信条としている。
※授業時の寺﨑先生
笑顔が素敵で、気さくでお話がしやすい先生は、いつも艶やかなお着物姿でおいでになられます。
―癒しにも感じられる時間
ここで私も、授業にお邪魔して、組紐に挑戦してみました。
実際の定例講座でも、初めての方が始める糸4玉を使用して、ストラップを組んでみます。
先生から、丁寧に糸玉をとる順番と、糸玉を「落とす」コツを教えていただくと、後は自分のタイミングでダイナミックに組むのみ。やってみると動作自体は意外と簡単で、編み物やお裁縫にはご縁がない不器用な私でも、スムーズに進めることができました。
糸を組む際、糸玉が丸台に落ちる時の音もなんとも風情があり、どんな作品が組めているのかと想像するのは、わくわくする時間でした。組んでいた時間は15分ほどでしたが、初心者の私でも10cmほどの組紐を組むことができました。
みじかい時間でしたが、歴史ある道具に触れながら自分と向き合い、いったいどんなものが出来るのだろうかと心を躍らせるような時間は、効率や時短を求めがちな普段の生活とは真逆で、非日常的で癒しにも感じられました。
※私が4玉で組んだ組紐のストラップ(房など取付の仕上げ前)。約10cm。
月2回の定例講座では、糸4玉から始め、上達していくと、8玉、16玉、24玉、32玉と8の倍数で糸玉の数が増えていきます。糸玉の数が増えると、糸玉をとる順番は少し複雑になっていきます。しかしその分、繊細な柄を組むことができます。
糸玉の数が増えても、基本的な組む動作自体に変化はなく、とる糸玉さえ間違えなければ、どなたでも組むことができるそうです。
先生が仰るには、「組紐は誰でも、いつからでも、何からでも作れる紐です。始めるのに遅い、早いもなく、気後れする必要もありません。また、それぞれが別々の作品を組めるので、周りの方を気にする必要もなく、自分のペースで進めることができますよ。」とのことでした。
何か新しい習い事を始める時は、周りの様子が気になって、ちょっとドキドキすることもあるかと思いますが、これなら安心して始められそうだなとほっとしました。
※受講生の方の作品。24玉でつくる帯締め。
※アングルを変えて。糸24玉が美しく並んでいる様子は圧巻です。
―終わりに
「伊賀のくみひも」講座に潜入してみて、普段とは少しちがう時間の流れの中で、自分に向き合う時間をもてたことで、気持ちがリフレッシュできたように感じました。
古くは奈良時代から続いているともいわれている伝統的文化にふれ、はるか昔の時代の人々は、この組紐を通してどんな生活を送っていただのだろうかと思いを馳せてみるきっかけにもなり、より深堀りしてみたくなりました。
受講生の方々が組紐を始められたきっかけも本当にさまざまです。ある方は、ご自身のサイズに合う帯締めがなかなか見つからないため、自分で作ってみたいと思われたとか。
また、上皇后の美智子さまが組紐を組んでいらっしゃるお姿をテレビ放映でお見かけして、ご自身もやってみたいと思われたという方もいらっしゃいました。
自分のペースで組めて、先生に質問もしやすい雰囲気なので、穏やかな気持ちで楽しく過ごせるのが、この講座の魅力のひとつだと思います。
寺﨑先生の信条としては、「できあがった組紐は、なるべく目から遠ざけてみることをおすすめします。」とのことです。
組紐の出来の良し悪しについて、組違いや糸のしめ忘れを見つけて悪しきとするのではなく、多少の誤りがあっても、少し離れて見れば、そんなことは気にならず、どんな作品も美しく感じられるそうです。
たくさんの色糸を自分の経験と感性をもとに自由に使いこなし、おおらかに、力強く、組紐をくむ。
組紐が本当に美しいのは、組んだ方一人一人のその時の暮らしや内面を表現したものだからなのかもしれません。
~体験レッスン~
5月1日(水)午後3時からは、体験講座を受けられます(1回/1,500円)。
第2・4水曜日午後3時30分からの授業見学も随時受付しております。(無料/30分程度)。
気になる方は、ぜひ、学 IWATAYA受付までお尋ねください。
さて、次回はどんな講座に潜入するでしょうか。お楽しみに。
※2024年3月5日(火)時点での情報です
※講座の開講状況は、随時、学 IWATAYAまでお問い合わせください(直通:092-734-2158)
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